それにしても、国王からの呼び出しとは……。まあ、思い当たる節といえばポーションの件くらいしかないよな。他に何かした覚えもないし……。
「出発のご準備ですか?」ミリアが心配そうに俺を見つめてくる。
「まあね。国王様からお呼び出しだからさ」
「わたくしも、ご一緒させていただきますわ」
ミリアは、まったく迷いのない声で言った。
「本当に? 実は一人で行くの、ちょっと不安だったんだよな」
貴族のミリアが一緒にいてくれれば、かなり心強い。それに俺、国王との謁見の作法なんて何も知らないし……。
「明日の朝、迎えの馬車が来るみたいだぞ」
「へぇ~。ずいぶん高待遇ですわね……」
ミリアは少し驚いたような表情を浮かべた。
「そうなの?」
「ええ。国王が平民に迎えを出すなんて、かなりの特例ですわ。王国に多大な功績があったり、王命に関わる用件でない限りは、まずありえません」
やっぱり……治癒薬の件で“どうしても会いたい”ってことなんだろうな。
その夜。ベッドに座るミリアの隣に腰を下ろし、何かお礼になるものはないかと考える。言葉はもう何度も伝えているし、お金を渡そうにも興味なさそうだし…… ふと思いついて、前にとても喜んでくれた“頬へのキス”で感謝を伝えた。
「いつもありがとうな、ミリア」
「きゃぁ♡ はわわぁっ、わぁ……。い、いえ……はぅぅ……♡ も、もっと……ユウヤ様のお役に立てるように、ガンバりますわっ」
ミリアは顔を真っ赤に染めておろおろしながら、お休みの挨拶をして部屋を出ていった。
……俺もそろそろ寝るかな。それにしても――ミリアの頬、やっぱり柔らかくていい感触だったなぁ。
——王都への旅路翌朝……
準備を終え、いつものメンバーで店の前に集まっていると、迎えの馬車がやってきた。磨き上げられた車体はまばゆいほどに輝き、その側面には王家の紋章が堂々と刻まれている。
いつもの顔ぶれ――俺、ミリア、男女の護衛二人、それにメイドさん一人の計五名。ところが、迎えの馬車は四人乗りだった。
そのため、ミリアが用意してくれていた別の馬車に俺とミリアが乗り込み、迎えの馬車のすぐ後ろをついていく形となった。
「ユウヤ様と二人っきりで……緊張しますわっ♪」そう言いながらも、ミリアの声には楽しそうな響きが混じっていて、表情もどこか照れくさそうだった。
「えぇ? ミリアが緊張?」
俺は少し驚いて、思わず笑いをこらえる。あのミリアが、緊張なんて……ありえない気がする。
「そうですわね……普段は緊張などしませんけれど、ユウヤ様の前ですと、つい緊張してしまいますの」
そう言って、ミリアは向かいの席から立ち上がり、当たり前のような顔で俺の隣に腰を下ろした。
――いや、本当に緊張してる? むしろ堂々としすぎじゃない?
「先は長いので、お休みになられていても構いませんわよ?」
「そうだなぁ……昨日は緊張してよく眠れなかったから、少し寝ておこうかな……」
俺は馬車の壁にもたれ、そのまま眠ってしまった。迎えの馬車よりも広く快適なこの馬車は心地よく、途中で石か段差に乗り上げた拍子に頭をぶつけて目を覚ましたものの、すぐにまた眠りに落ちた。
やがて目を覚ますと、柔らかい枕に優しい香り――それに、誰かが俺の頭をそっと撫でてくれている心地よさがあった。ふんわりと包み込まれるような癒しの感触。
……ん? 頭、撫でられてる? 誰に? えっ!?
慌てて目を開けると、俺はミリアの膝枕で眠っていた。
「あっ、ごめん!」
思わず飛び起きそうになる。
「何を謝っていらっしゃるのかしら?」
ミリアは微笑みを浮かべながら俺を見つめた。
「いや……その、膝枕をさせちゃって……」
「構いませんわよ? もう少しそのままお休みになってください……」
――いや、無理だって。美少女の顔が目の前にあるし、膝の感触はふわふわだし、それに頭を撫でられて微笑まれたら……緊張とドキドキで寝られるわけがない!
「いや、大丈夫。もう十分休ませてもらったよ。ありがとな」
そう言って起き上がろうとすると、
「まだ時間がありますので、このままでも……よろしければ」
ミリアはそう言って、再び優しく俺の頭を撫でた――まるで、包み込むように。
「俺に膝枕なんて……」
俺は言葉を濁した。こんな贅沢な状況に、どう反応していいか分からなかった。
「……わたしじゃ……お嫌でしたか?」
ミリアは少し不安そうな顔で俺を見つめた。その青い瞳が、わずかに潤んでいるように見えた。
「そんな事はないよ。とても心地良かったし」
俺は慌てて否定した。実際、ミリアの膝は柔らかく、心地よかった。ううぅ……ん……良いのか?俺は良いけど……。
「ユウヤ様の髪の毛……サラサラで気持ち良い触り心地ですね」
ミリアは俺の髪を指で梳きながら、うっとりとした表情で言った。彼女の指先が優しく頭を刺激してくる。
「それはミリアの髪の毛の方じゃないのか?」
俺がそう返すと、ミリアは小さく首を横に振った。
「そんな事はありませんよ……」
それにしても、国王からの呼び出しとは……。まあ、思い当たる節といえばポーションの件くらいしかないよな。他に何かした覚えもないし……。 「出発のご準備ですか?」 ミリアが心配そうに俺を見つめてくる。「まあね。国王様からお呼び出しだからさ」「わたくしも、ご一緒させていただきますわ」 ミリアは、まったく迷いのない声で言った。「本当に? 実は一人で行くの、ちょっと不安だったんだよな」 貴族のミリアが一緒にいてくれれば、かなり心強い。それに俺、国王との謁見の作法なんて何も知らないし……。「明日の朝、迎えの馬車が来るみたいだぞ」「へぇ~。ずいぶん高待遇ですわね……」 ミリアは少し驚いたような表情を浮かべた。「そうなの?」「ええ。国王が平民に迎えを出すなんて、かなりの特例ですわ。王国に多大な功績があったり、王命に関わる用件でない限りは、まずありえません」 やっぱり……治癒薬の件で“どうしても会いたい”ってことなんだろうな。 その夜。ベッドに座るミリアの隣に腰を下ろし、何かお礼になるものはないかと考える。言葉はもう何度も伝えているし、お金を渡そうにも興味なさそうだし…… ふと思いついて、前にとても喜んでくれた“頬へのキス”で感謝を伝えた。「いつもありがとうな、ミリア」「きゃぁ♡ はわわぁっ、わぁ……。い、いえ……はぅぅ……♡ も、もっと……ユウヤ様のお役に立てるように、ガンバりますわっ」 ミリアは顔を真っ赤に染めておろおろしながら、お休みの挨拶をして部屋を出ていった。 ……俺もそろそろ寝るかな。それにしても――ミリアの頬、やっぱり柔らかくていい感触だったなぁ。 ——王都への旅路 翌朝…… 準備を終え、いつものメンバーで店の前に集まっていると、迎えの馬車がやってきた。磨き上げられた車体はまばゆいほどに輝き、その側面には王家の紋章が堂々と刻まれている。 いつもの顔ぶれ――俺、ミリア、男女の護衛二人、それ
あ、従業員を雇えば良いんじゃないの? それで馴れてきたら店を任せれば良いじゃん。ミリアの紹介をしてくれる人なら安心できそうだし……。 お店で手伝ってくれていたミリアを呼んで相談してみた。「なぁ~ミリア、信用できるヤツに店を任せたいんだけど……良い人を紹介してくれないか?」「そうですわね……これでは、ユウヤ様と落ち着いてお話も出来ませんし……」 ミリアは少し考えるように言った。彼女と話をしていると、外が騒がしくなった。「店主は、いるか!!?」 それは、呼び声ではなく、怒鳴り声が店内に響き渡った。 うわっ、まさか初のクレームか? 傷が治らないとか? いや、そんなはずはない……。もしかして、もう偽物が出回ってるとか? それとも期限切れの品を騙されて掴まされたって話かも……? そう思いながら店の方へ出てみると、そこには騎士風の男が5人と、いかにも偉そうな貴族風の男が1人。周囲の客たちは、その異様な雰囲気に圧倒されたのか、みんな距離をとって怯えたように様子をうかがっていた。「何でしょうか?」 俺が尋ねると、貴族風の男が腕を組み、冷たい視線を向けてきた。「誰の許可を得て薬を売っているんだ?」 は? 許可……何も考えてなかった……。誰に何の許可を貰えば良いんだ? 薬師ギルド? 商業ギルド? 町長? 領主? 国王?「いえ……まだ許可は得ていません」 俺が正直に答えると、貴族風の男はニヤリと笑った。「では、違法だな……コイツを捕らえろ!」 騎士たちが剣に手をかけ、俺に近づいてくる。1日目にして閉店か? しかし、その言葉を聞いて、必要としてくれていたお客さんがキレていた。「ふざけるな! どうせ領主が金の匂いを嗅ぎつけたんだろ!」「税金とか言い出したりして、薬の値上げされたら困ります!」「まさが、薬の独占する気じゃねぇのか!?」 お客さんたちが貴族風の男に詰め寄る。その間に、不機嫌な顔をしたミリアが、懐から手紙を取り出し、偉そうなヤツに突き付けた。
護衛を見ると、目を閉じて嫌そうな表情をしていた。そりゃそうか……屋敷での護衛よりも外の方が護衛が大変だもんな。「いや。止めておいた方が良いんじゃないのか? 護衛が大変そうだし?」 俺がそう言うと、ミリアが護衛に視線を移した。「何なのですか! その表情は! お嫌でしたら付いてこなくても結構です。ふんっ!」 ミリアはご機嫌斜めになってしまい、警護が慌てた様子で言い訳を始めた。「ち、違います。少し訓練不足で体力が無くなっているようでして……少し疲れていただけです。決して嫌な訳ではありません! すみませんでした!」 警護の責任者は、顔を真っ青にして必死に弁解する。「知りませんわ。ご自由になさって結構ですわっ」 ミリアは、プイと横を向いてしまった。これも俺のせいなのか? そこまで面倒を見てられないぞ……嫌だったら付いてこな来なければ良いんじゃないの? で代わりの者を護衛に付ければ良いじゃん。それかミリアを説得すれば良いだろ。「それじゃ、俺は帰るよ」 俺はそう言って立ち上がろうとした。「どちらにお帰りに? 家は無いと仰っていましたよね?」 ミリアは、すぐに俺を呼び止めた。「あぁ~家は無いからテントで寝泊まりしてるぞ」「テントですか? それでしたら、うちに是非お越しください! 部屋も空いていますし」 ミリアは目を輝かせ、俺を誘った。「いやぁ……迷惑になるし悪いよ」「……誰の迷惑になるのですか?」 ミリアの問いかけに、俺は言葉を詰まらせた。「えっと……使用人の方達のさ……」「使用人ですか? それは使用人達のお仕事ですわっ。迷惑と思うなら仕事の放棄ですわね……ですが、うちにはその様な使用人は居ませんわよ」 ミリアの言葉に、メイ
この薬は即効性があり、効果がはっきりと実感できる仕様になっている。痛みはすぐに消え、擦り傷程度なら一日で完治する。刺し傷や中程度の傷なら三日ほど、重傷でも一週間程度で治癒する。 服用量によって効果は増幅し、二本飲めば回復速度は二倍となる。患部に直接かけた場合も同様で、二本分を使えば治癒がさらに加速する。ただし、効果が上がるのは最大で二本まで。三本、四本と増やしても、それ以上の効果は得られない。「これは美味いな。薬と聞いて苦くて不味いと思ってたが……って……あれ? 痛みが無くなって血も止まったな! なんだこれは! スゴイな!」 冒険者の声がデカくて、宣伝効果もバッチリだな……ありがたい。彼の興奮した声に、周りの冒険者たちが注目し始めた。お陰で注目されて人だかりが出来たけど……軽傷者に使っても宣伝にならないので、俺はケガの程度がヒドイ人を探していた。「うちのパーティに重傷を負ったヤツがいるんだ! 是非1本貰えないか? 頼む!!」 別の冒険者が、焦った様子で駆け寄ってきた。「でしたら食堂まで運んで来て下さい」 慈善事業じゃなく宣伝なので、皆が見てる前で治さないと意味がないので運んできてもらう。宣伝だからという理由だけじゃなく、不衛生な外より室内で処置をした方が良いだろ。「分かった。直ぐに運んでくる!」 冒険者は力強く頷き、ギルドの外へと駆けていった。運ばれてきた人は腹部にモンスターの爪で引き裂かれ、明らかに重傷だった。その傷口からは、生々しい血が滲んでいる。これは……マジで痛そう! 前世の記憶の医者でも大手術だね……内臓まで切り裂かれてるし……爪なので3箇所も引き裂かれてるし。まー死んでいなければ治るでしょ……多分。重傷だし2本使うか……。「今回は特別に2本使わせてもらいます」 俺はそう言って、2本の治癒薬を取り出した。「助かるか? 大丈夫か?
多分だけど人気が出れば偽物が出回ってくると思うので、空き瓶を利用して販売されても信用に係るので、使い切ると瓶は消滅して消えるように設定した。魔法が無い世界なので真似は出来ないと思う。それと偽物が作られないように、見た目にも薄い透明なピンク色の液体で、ほのかにピンク色に光るようにしてあるので、これも真似が出来ないと思う。しばらくして、俺は受付嬢に近寄り感想を聞こうと声を掛けてみた。「使ってみました?」「うん。使った! 使ったよ。なにコレ!? スゴイんだけど! 子供の時の肌に戻って……ぷにぷにして、しっとりしてる! もぅ最高~♪」 受付嬢は興奮した様子で、自分の頬を触りながらまくしたてた。その肌は、確かに瑞々しく輝いている。だけど、お姉さん……20代前半だよね!? そんな肌を若返らせて……どうするの? 10代の肌は違うか。ぷにぷにだもんな……と、ミリアの頬を見て納得する。「説明をした通りですけど、持続するのは明日の今頃までですよ。今の技術ですと、これが限界なんですよ」「そうなの? うわぁ……。で、値段は……?」受付嬢は、がっかりしたような声を出し、すぐに恐る恐る価格を尋ねてきた。「先程のサイズの瓶で銅貨20枚です。大瓶ですと銀貨6枚で33日分で3日分お得ですよ」「あぁ……大瓶が欲しいけど給与日前で厳しいんだよね。給与日まで小瓶で我慢する~明日も来るんでしょ?」 受付嬢は期待に満ちた目で俺を見上げた。返事をしないでいると慌てた様子のお姉さん。「えぇ~なによそれ……。来てよ~ねぇねぇ~お願いっ」 彼女は俺の服を掴んで揺すってきた。その瞬間、ミリアが頬を膨らませて、怒った表情で近づいてきた。「ユウヤ様。何をされてるのかしら?」 ミリアの声には、明らかに不機嫌な色が混じっている。「えっと&h
「ギルドマスターは居るのかしら?」 ミリアが毅然とした口調で受付嬢に話しかけた。その声には、貴族ならではの有無を言わせぬ響きがある。「はい? まぁ~居りますが、約束をされていなければお会い出来ませんよ。お約束はお有りでしょうか?」 受付嬢は、ミリアの纏う普通とは違うオーラを感じ取ったのか、俺との対応とは打って変わって、少し戸惑った様子で答えた。「お手紙を届ける事は出来ますわよね? 急ぎの件だと仰って頂けるかしら」 ミリアの高圧的な口調に、受付嬢はすっかり圧倒され、素直に従って席を立ち、手紙を届けに行った。その背中は、どこか焦りを帯びているようにも見えた。 しばらくすると、ギルドマスターなのか、男性職員が慌てて出てきた。彼は受付に並ぶ人達を見回し、後から追うようにして来た受付嬢に誰なのかを聞いているようで、受付嬢が指でこちらを差した。「き、君達が、この手紙を?」 ギルドマスターらしき男性は、息を切らしながら問いかけてきた。俺は内容を知らないのでミリアを見た。「ええ。そうですわよ。それが何か?」 ミリアは涼しい顔で答える。「この手紙は、どうやって手に入れたんだ? どういう経緯で書いて頂けたんだ? 本物なのか? 偽物だとしたら重罪だぞ!」 ギルドマスターは、興奮した様子で矢継ぎ早に質問を投げかける。その顔には、焦りと疑念が入り混じっている。 ミリアは何の手紙を渡したんだ? 誰からの手紙を渡したんだ? この慌て方は……とても偉い人からの手紙だよな……領主様からの手紙か? だとしたら父親から書いてもらった手紙か。さすが貴族のお嬢様だな……。「そんなに、まくし立てられましても困りますわ」 ミリアは眉一つ動かさず、冷静に言い放った。「平民の君達が頂けるような手紙では無いだろ!」 ギルドマスターは、まだ疑いの目を向けてくる。「ですが、本物ですわよ? 蠟封の印と手紙の紙の透かしを見れば分かりますよね?」